レビュー数などが多く以前から気になっていた『義妹生活(1)』を読みましたので感想でも。いつもどおり軽度のネタバレは含むのでご注意ください。
あらすじ
「親の再婚で同級生が兄妹になった」というテンプレ的なやつ...と思いきやちょっと違います。
なんといいますか「赤の他人」感が強い。この手のテンプレの反発しあうとか逆にイチャイチャするとか一切ナシ。兄妹というより他人との同居。二人が極めてクールでドライな思考/態度なのが「他人感」を加速させます。
二人の性格、関係、およびこの作品を象徴するのが冒頭にでてくる次のヒロインの台詞ではないでしょうか?
「私はあなたに何も期待しないから、あなたも私に何も期待しないでほしいの」
そしてその二人がお互いの価値観の差を認めつつ/埋めつつ距離を縮めていくお話です。
内容は主人公の日記形式。1日ずつ丁寧に、1週間分描かれます。
なので必然的に主人公視点のお話です。
感想
感想を書くのが難しい作品ですね...というのも かなり面白かったけど何が面白かったのか自分でよく分かってない んですよ。
うーん、なんだろう?全体的に不思議な心地よさがあったような気がします。
文章が変に冗長だったり逆にやたら高尚なワードを使ったりせずサクサク読めるんですよね。とはいえところどころ比喩も交えた情景描写が心地良いし、丁寧な心理描写もある。でもしつこくない。
キャラの掛け合いも心地よい。同居ものテンプレの「ケンカ腰」とは程遠い二人なので読んでてストレスが溜まらないんですよね。もちろん「お前らもう付き合っちゃえよ」もない。
むしろ思考がロジカルすぎないか?とは思いますがw
その論理的思考も決して複雑ではなく飛躍的でもなく、素直に読んでいけば理解可能なものです。
展開も丁寧。よくあるご都合主義といいますか「作者の神の手」が見え気になるようなことはなかったです。終盤に一箇所だけ強引と思える部分はありましたがその程度。この手のもの恒例の安易な萌えテンプレ的展開も控えめなのがいいです。
なので「距離の縮んでいく過程」を素直に受け入れることができました。といっても1巻終了時点では恋愛要素はほぼ皆無で、家族(or友人)としての距離が縮んだ という程度ですが。
それらのおかげで読後感も心地よいですね。闇要素や大きな障害はないのでカタルシスという類ものはありませんが、心が澄んでいくような印象でした。
達観してる主人公・ヒロイン
主人公・ヒロインとも非常に大人っぽい、ある種達観した考え方を持ってるのがこの作品の特徴。大げさにいうと、ロボットAI 的な印象さえ受けます。 ただともに両親が離婚し片親という境遇、さらにその父母ともかなーり「間の抜けた」性格であることを考えると納得できる範囲ではあります。子がしっかりしないといけなかったんだろうな...
そしてお互いの会話のほとんどが「価値観のずれの認識」ですからね...しかもそのずれを時に断片的な言葉で悟ってるからコイツらすごすぎる。そりゃ二人とも普通の高校生とコミュニケーションとれんわ...
逆にいうと 二人の相性はピッタリ なわけで。特に努力家で根詰めてる感を漂わせるヒロインにとっては自分を理解してくれる貴重な人に出会ったといえるのではないでしょうか?
1巻の終わりでもまだ恋愛というには程遠い状態。終盤ヒロインの「危うさ」が多少垣間見えており、それをトリガーに今後も期待どおりに進むのではないかな?という気はしてます(そもそもびっくり仰天な展開を望むような作品でもないですし)。
サブヒロイン 読売栞
ヒロインの他にもう一人、目立つ女性キャラがでてきます。それが主人公のバイト先の先輩 読売 栞。 これがいいキャラでして...黒髪ストレートロングの清楚可憐で美人な大学生のお姉さん、ですが中身が下ネタ連発(かなりエグい)のオヤジ気質とかもうギャップたまらん(可能ならギャップを見せるのをもう少し遅くしてほしかった!)。
「察しの良さ」も主人公・ヒロイン並。主役二人がクールなのに対し、「ひょうひょうとした」雰囲気を漂わせてるのがまた面白いですね。今後相当活躍間違いなしでしょう。
そしてこのキャラ、とても興味深い内容が記述されており...
- 中高大と女子校
- 新歓でオヤジキャラがばれる
- 以降告白される回数が減った
んんん??
これらから推測するに「告白してきた」のは女性のはず...女子校の新歓に男子が多いとは思えない。しかも減ったということはかなーりの回数を経験してるはず....ということは...ゴクリ。
「読売栞について」 の執筆を著者にお願いしたい...
中学・高校時代からお願いしたいところ。亜麻色の髪をもったハーフアップのお淑やかお嬢様に言い寄られたり、喫茶店の女性マスターとの会話があるとよりいいですw
いやー、この手の本編で活躍した負けキャラ(勝手に負けさせてるw)のスピンオフは必須でしょう...いや、ほんとお願いします。そっち方面の栞先輩をみたい...
イラストが好き
最後に完全に個人的な好みですが、イラストがものすごい好み です。こういう等身高めで透明感あるイラストって大好きなんですよね。 表紙はいいけど口絵/挿絵はいまいち、というものが珍しくない中、これはしっかりかかれていて好印象。
表紙のデザイン自体もスッキリしてていいですね。レイアウトがシンプルでごちゃごちゃしてない。こういうのが好きなんだけど少数派だよなぁ...
根本的にタイトルが短いのがいい
Youtube
買った後に知ったのですがこの作品、元はYoutubeで公開された動画がベース だったんですね。公式チャンネルはこちらから。というわけで最初の10話ほど視聴してみました。
結論からいうと、登場人物、意外別物 という印象。特に主人公は大幅にキャラが違う。
ヒロインもヒロインで、似てはいるものの小説版のほうがより「ロジカル」な印象。
またYoutubeはお話も全体的にコミカル。共同生活でお互いのずれを埋めていく、というコンセプトは一緒ですがよりコメディ色/イチャイチャ属性が強いです。コメント欄に「新婚生活」とあるのも納得。比べると小説版は「シェアハウス」というところでしょうか。
個人的には小説版のほうが好きですが、動画版のほうが好きという人も多いのではないかと思います(むしろ多数派な気が)
まとめ
サンプルでの期待どおり、わかりやすい「ラノベ」要素がなく素直に読め、かつ繊細な心理描写が楽しめた作品でした。そこまで起伏のあるストーリーというわけではないのですが、なぜか心地よくすーっと最後まで一気に読んでしまう、不思議な作品でした。
ラノベっぽくない作品、といえるかもしれませんね。今まで読んだ作品の中では繊細な表現が多かったですし、テンプレ萌え展開も控えめですし。
逆に「義妹」というタイトルから連想されるツンやデレを期待するとつまらなく感じるかも(表紙のイラストも落ち着いてるのであまり勘違いしないとは思いますが)。
昨今のラノベ界隈のラブコメブームに食傷気味の人は意外と刺さる作品なのではないかと思います。
続刊、買わねば。(でも他に読みたい作品もある)