表題のとおり、『とある飛空士への追憶』の感想を。KindleUnlimitedなら無料で読めるので読んでみました。
古い作品ですが自分でも名前は聞いたことあるぐらいなので面白いのではないか?という期待を込めてのダウンロード。
結論から言うとすごい面白かったです。
中盤までのネタバレが軽くありますのでご注意を。
あらすじ
被差別人種に生まれ、かつ非凡な戦闘機操縦能力をもつ主人公、狩乃シャルル。
傭兵部隊に所属してた彼はあるとき、彼に極秘任務が言い渡されます。
それが、 陥落寸前のレヴァーム自治区から皇子の婚約者、ファナ・デル・モラルを脱出されること。
しかしレヴァーム自治区は敵の制空圏内近く。自国の制空圏内までは1万2000キロ。
未来の皇女を戦闘機の後部座席にのせ、たった二人、4日間の脱出劇が始まる。
世界観
世界観としては第二次大戦前後でしょうか。主体はプロペラ戦闘機。「真電」というまぁほぼまんまな機体がでてきますしw
ただしちょっとSF入っており、「水素電池」という架空技術を使いプロペラを駆動します。
これがなかなか面白く、海水から充電可能。なんというクリーンエネルギー...
またもう一つ特徴的な設定として、主人公側と敵国側の間に「大瀑布」と呼ばれる海の溝が存在します。
下手くそなアスキーアートだとこんな断面図。
本国 敵国
-------+ +------海
| |
溝
このため、船舶ではお互いの国の行き来は不可能。必然的に空が貿易/戦闘の主体となります。
この「大瀑布」を超えることが主人公たちの主目的です。
以下感想。
よく練られた世界観
「水素電池」と「大瀑布」の存在が面白いですね。
最初は1万2000kmも補給どうすんねん?と思ってたのですが、まさか着水で補給とは...二国間に大きな海があることも相まって非常に面白い設定でした。
これ、戦闘にも活きています。脱出中、(当然)敵戦闘機に襲われるのですがここでの主人公の戦略がこの設定ならでは。
ようは逃げ切ればいい、わけですが「水上機でない敵機」は燃料のあるうちに航空母艦まで引き返す必要がある。しかし主人公側は水上機なので電池切れを恐れず出力をあげれる。
この辺はしっかり考えられているなぁと感心しました。
逆にいうと、主人公側は1万2000km 孤立無援です。普通なら基地などによって補給必要ですが、この機体ではそんなのいらない。
補給できてしまうから、4日間も完全に支援がない状態で、たった二人で飛ばねばならない。
これがまた二人の仲を深めるのに一役買っている。
勝手な想像ですが、著者は「飛行機で、二人の仲がもっとも深まる脱出劇は?」と考えてこの水素電池+大瀑布の設定にいたったのではないでしょうか?とても良くねられていてすごいと思いました。
卓越した空中戦描写
著者の文章力がすごい。いや、昨今のラノベなんなん?って言いたくなるぐらい文章が違う。脳内に鮮烈な景色が描写されます。
これが空となるとさらに一段上のステージにいく。時速数百キロでの複雑でスピーディーな空中機動がありありと目の前で展開してるかのよう。
とても緊張感のある描写で読んでてハラハラしました。そこらの戦闘機アニメよりよっぽど緊張感あります。
積乱雲の中の航行、わずか高度10mでの海面ギリギリの飛行、敵機の追尾からの銃撃...どれも躍動感に溢れており印象的。
というか著者、航空オタクすぎんか?w 離陸のシーン一つとっても描写が細かすぎる...いや、読んでて楽しかったんで全く問題ないのですが...
魅力的なヒロイン
ヒロインである皇子の婚約者、ファナもこの作品の魅力の一つ。
両親に厳しくほぼ自由意志がないような状態で育てられたせいで、劇中当初は人形のように感情のない人物。
それこそ「別に死んでもいい」と本気で思っているような姫様です。
ちなみに恐ろしく美人設定。階段をのぼっている人がヒロインを見てしまうと転げ落ちる とかやばいw
しかしそんな彼女が20ミリ銃弾の雨の中、死に恐怖し、生を渇望する。真夜中の海の暗さに恐怖を覚え、無人島の自然の美しさに心踊らせる。そして徐々に人間らしい、本来のお転婆な姿を取り戻していくのが印象的でした。
この本来の姫様がとてもかわいい。序盤の無感情とのギャップがすごい。「はい/いいえ」ぐらいしかしゃべったなかったのが「です/ます」調で話すようになり、さらにタメ口で話すようになり、最後には主人公に対し駄々っ子のように振る舞うw
そしてその態度にあわせ、お互いに惹かれ合っていくのもこの作品の大きな魅力の一つです。
気になったところ
この自治区の存在でしょうか...大瀑布超えのもろ敵地側にあってよく無事やな、と...
また敵国側がヒロイン殺害目的で急襲後(※失敗してる)、しばらくの間放置してたのはなんでや...
このへんは読んでて???でした。考えすぎかもしれませんが。
あとは挿絵でしょうか。いえ、悪くはないのですがヒロインの絵が表紙や文章のイメージより相当幼く、ちょっと違和感を覚えました。
まとめ
とてもおもしろい作品でした。読了感も満足感と同時に、読み終えてしまった切なさも少し感じたいぐらいです。
さらにあまりにも海と空に対する描写が鮮烈なので、読了直後に思わず海を見にドライブにでかけてしまいましたw
いい作品はリアル生活に影響あたえるな、うん。
にしても本当に文章が良かった。昨今のWeb小説主体の分かりやすく素直な文章のラノベより、一昔前の凝った表現が多い文芸寄りのラノベのほうが自分好みなのかもしれない。
同著者の他の作品もチェックしてみたのですが、本当に航空機オタクですねw 興味が湧いてきました。また読んでみたいと思います。
ちなみに本日現在(2021/10/02)、Kindleセールで色々半額。何冊かまとめ買いしようと計画中です。